日本植物病理学会ニュース 第13号 (2000年08月)

【名誉会員・永年会員の略歴とお話】
名誉会員 渡辺 實
昭和5年2月22日千葉県で生まれ, 東京市麹町区で成長した. 東京府立四中を経て昭和24年3月東京農林専門学校農科卒業, 同年10月農林省農事試験場病理部助手 (西ケ原) に採用, 翌25年4月同試験場は機構改革により農業技術研究所と名称変更, 病理昆虫部病理科細菌病第二研究室 (富永時任室長) に配属, イネ白葉枯病の研究を開始した. その後, 細菌病第一研究室 (向秀夫室長) に所属替えとなり, 同じ研究を継続した. 昭和36年7月東京農工大学農学部へ出向, 植物病理学研究室に所属. 昭和37年3月農学博士 (稲白葉枯病病原細菌の系統に関する研究). 昭和39年4月助教授, 同56年6月教授, 平成2年4月大学院連合農学研究科長併任 (2ヶ年), 平成5年3月定年退官, 同年4月名誉教授. 平成11年10月中国雲南農業大学名誉教授. この間, 非常勤講師として東京大学農学部で「細菌学」(10年間), 千葉大学大学院園芸学研究科 (隔年で5回), 北海道大学・神戸大学の大学院農学研究科 (各1回) で「植物細菌病」について講義を行った.
研究は, イネ白葉枯病を主な対象とし, 病態生理では感染による呼吸, 酸化酵素活性, 光合成産物の挙動, 組織透過性などの諸変化が, 抵抗反応には関与せず, 親和性感染葉で病原細菌増殖の結果として, 組織の老化, 退行的変化を生じたものと推察した. 抵抗性機作の研究では, 低抗性誘導組織で抗菌活性が増大することから, 抗菌物質の検索を行い, 健全葉に含まれる先在性新規ジテルペン系抗菌物質オリザライド類を発見した. 本物質は付傷, 感染により著しく増加するが, 抵抗性発現への役割は明らかになっていない. 海外出長は, インドネシア・東カリマンタンで発生病害の調査 (1ヶ月), アメリカ合衆国ウイスコンシン大学ほかで植物細菌病の研究 (2ヶ月), その他である.
学会との関わりは, 昭和25年に入会後, 庶務幹事 (昭和35・36年度), 編集幹事 (同37・38年度) を初めとし, 庶務幹事長 (同53年・54年度), 評議員 (同57年度 〜 平成6年度), 会計監査委員 (昭和59年度 〜 平成7年度), 本学会昭和63年度大会委員長, 関東部会長 (平成2・3年度)などを務めた. これらの経験により, 学会運営に関わる組織, 財政, 人的交流などに精通することが出来, 私にとって大変良い勉強になった. 今後とも学会の運営面で何かお手伝いできることがあれば, 喜んでお役に立ちたいと考えている.

永年会員 桐山 清
大正14年3月9日, 神奈川県で出生. 神奈川県立愛甲農業学校卒業. 昭和17年1月, 専売局秦野たばこ試験場に勤務. ここで日高醇氏との出会いが研究を志す契機となる. 宇都宮農林専門学校農学科に入学, 在学中兵役 (陸軍船舶兵) もあったが, 昭和22年3月同校卒業, 再び秦野たばこ試験場に勤務, 病虫部配属となる. 昭和24年大蔵技官. 昭和25 〜 26年東京大学伝染病研究所 (医科研) に内地留学, 細菌学, 血清学を研修 (指導教官, 沢井芳男助教授). 昭和40年10月盛岡たばこ試験場調査役, 第3研究室長 (病虫担当). 昭和46年農学博士 (九州大学)「キウリモザイクウイルスの精製ならびに血清学的研究」. 昭和47年3月秦野たばこ試験場主任研究員. 統合により中央研究所へ. 昭和48年10月, 生物実験センター第1研究室長. 昭和55年7月, 生物実験センター所長. 昭和58年3月に定年退職. 引き続き(財)たぱこ産業弘済会秦野事業所長. 平成4年3月退職し現在に至る.
秦野試ではクロールピクリンによる土壌消毒の研究 (日高醇氏の学位論文) の手伝いが初仕事であり, タバコ矮化病の防除試験, CMVの総合防除試験など, 病害防除を目指した試験研究を手懸けた. CMVの研究では, ウイルスの精製, 血清学的研究が私の仕事であった. 試行錯誤のうえ幸いCMV抗体の作成に成功した. また, 精製CMVの電顕観察で球状粒子を初めて確認したときの感激は, 遠い昔となったが今も忘れられない.
盛岡試では, TMVの発生生態, 土壌伝搬の研究, マウス抗体の作成などを行った. また抗体性タバコの矮化症状がTMVにより引起されることを実証した.
生物実験センターでは, 研究はToxicologyの分野となり植物病理学から離れたが, 情報収集は引き続き行ない, 現在APSのEmeritus Memberでもある.
日本植物病理学会では活発な研究討論が行なわれ, 特に若い方々のご活躍を大変頼もしく思います. 植物の健康を守るため病害防除を目指して植物病理学会が一層の発展を遂げるよう祈っております.

永年会員 河野明綱
大正13年12月20日愛媛県で出生. 昭和18年松山市の旧制北豫中学校から宮崎高等農林学校農学科入学, 翌年農林専門学校と改称. 昭和20年1月2日香川県善通寺町の山砲部隊に在学のまま入隊. 同年9月復員, 9月25日農林専門学校農科卒業.
高等農林学校の1年次は勤労奉仕が多く, 2年次の農林専門学校では, 学徒動員のため7か月間授業が無く, 残りの3か月間と3年次は軍隊生活であり, 更に戦争のため6か月繰り上げ卒業となったため全く通学することなく卒業した. 昭和22年縁あって故郷の新制中学校の教員となった.
しかし勉強不足を痛感し, 24年5月母校の宮崎農林専門学校の農場に転職した. 本学は6月に大学に昇格したため助手採用となり, 宮崎大学農学部に約40年間奉職した. 農場の仕事を兼務しながら平田正一先生の下で試験管の洗い方から教わり, 植物病理学研究に関するすべての指導を頂いた. 昭和48年, 赤井重恭先生指導のもとに京都大学より農学博士の学位をいただいた.
研究は主として飼料作物・エンバクの冠さび病であり, その他ラッカセイ, ニラなどのさび病について研究した. 専門外として植物を採集し1075種の目録を作成した.
平成2年, 定年退職. その間, 専攻生として指導した学生は152名となり, その中で植物病理学会員として現在活躍している人は11名である.
昭和26年京都大学で開催された日本植物病理学会大会に初めて出席して以来50年間, 本学会に所属し, 何ら貢献することなく, 今回永年会員として表彰されたことは身にあまる思いであります.
日本植物病理学会の発展を祈り, 会員の皆様方の健康の維持と益カの研究の発展を願うものであります.

永年会員 正子 朔
大正14年1月1日神戸市生まれ, 昭和17年県立伊丹中学校卒業.満鉄入杜, 同19年満鉄留学生として官立明治高専電気科に入学. 同22年, 京都大学農学部農林生物学科に進み, 翌年逸見教授を主任とする植物病理学講座に入り, 赤井教授の卒論第1回生となる. 昭和25年大学院特別研究生となり, 紫外線, γ線など放射線の微生物に対する影響について研究, これを纏めて昭和37年京都大学より学位を受く.
昭和38年京都府立大学桂教授に助教授として迎えられる. 教授より公立大学の特徴として, 視点を農業現場においた研究をとの指導を受け, 関西病虫害研究会報編集を担当することにもなり, 爾後約20年間編集関係に携わり, 多くの病虫害の技術者に知已を得た. 昭和48年教授に. 翌年本学会評議員に選ばれ, 平成元年までの学会運営の一端に触れた. 研究は桂教授が主力を注がれた植物疫病に絞り, 菌の分類, 生理, 生態, 防除に関する業績を積むことにたった. 幸いにして, 宮田, 吉川両氏がそれぞれ得意とする分野に於いて協力を得, 私の非力にも拘わらず一時期疫病研究の業績が研究室から相次いで出ることになった. これは全く両氏の研鑚の賜であった. この間, 疫病菌選択分離用培地を改良し, 各国で用いられたのは懐かしい研究成果である. 疫病研究の関係から土壌伝染病談話会に関わり, さらにその関係から農水省の諸研究に誘いを受け, 財政的な研究援助を受けると共に, 全国各地の土壌病害の実際に触れる機会を得た. また, 疫病研究の縁により台中の農業研究センターを足掛かりに, 本島のほぽ全周を巡り疫病の実態を見る機会を得た.
京都府大退職後は近畿大学豊岡短大の教育・経営に当り学長を辞した後, 日本防菌防黴学会の会長を受けたりして過ごし, 目下ネパール国教育支援グループの一員として毎年渡航し, 貧しい国の子供達の成長を見守って4年になる.
研完から遠ざかった身が, 教え子や知已の研究活動を知るために単に永く学会に籍を置いただげで, 今回永年会員に推挙されたことには内心忸怩たるものがある.
会報を通じ植物病理学研究の進展を刻々と知り, 頼もしく思うと共に学会の益々発展されることを祈っている.

永年会員 大島信行
大正9年1月24日, 北海道で出生. 北海道帝国大学予科農類から同大学農学部農業生物学科昭和21年9月卒, 10月同学部大学院前期入学, 昭和26年3月後期退学. 4月農林省北海道農業試験場病理昆虫部病理研究室に採用, 昭和40年病害第2研究室長, 昭和41年農林省植物ウイルス研究所研究第一伝染研究室長, 唱和44年研究第一部長, 昭和56年1月退職. 同1月(社)日本植物防疫協会研究所付調査役, 昭和61年1月退職.
北大では福士貞吉先生の指導で馬鈴薯のウイルスを研究し, 罹病塊茎のX線照射試験は治療は出来なかったが印象に残っている. 北農試でも, 主に馬鈴薯ウイルスの試験研究を行ない, 昭和33 〜 34年科学技術庁在外研究員として米国Wisconsin大学に留学, R.H. Larson博士の指導で馬鈴暮ウイルス病の研究をした. 昭和34年8月カナダのPotato Assoc America 43rd Ann. Meetingに出席, "R.H. Larson and N. Oshima: Potato virus S recovered from the roots of the "immune" variety Saco" をLarson博士が発表した. その後北海道ではトマトモザイク病の被害が増し, 昭和37年から弱毒TMVの干渉作用による防除試験を園芸第2研究室と共同で始め, 昭和38年圃場トマトから採ったTMV (TMV-L) を弱毒化したウイルスL11は予想外に効果があり, 弱毒ウイルスの有効性を認める端緒となった. 昭和54年第14回太平洋学術会議 (ハバロフスク, ソ連) で“Theory and practice of Tomato Vaccination in Japan" を講演発表. 日植防研究所では抗植物ウイルス剤, G. Schuster博士 (Karl-Marx-Univ.) 開発のDHT (2, 4-di-oxohexahydro-1, 3, 5-triagine) で試験し, PVX感染トマトに対する絶大な治療効果に驚かされた.
学位: 北海道大学農学博士 (馬鈴薯Xウイルスに関する研究) 昭和33年. 受賞: 昭和43年上記の研究に対し日本植物病理学会賞, 昭和53年農林省職員功績賞 (弱毒ウイルス利用による植物ウイルス病の防除法の開発), この外,"弱毒ウイルスの開発, 利用" 関係で, 昭和56年日本農学賞, 讀賣農学賞, 平成2年日本農業研究所賞, 平成5年農林水産技術会議会長賞 (農業試験研究一世紀記念).
紫綬褒賞 (弱毒ウイルス分離利用による植物ウイルス病の防除法の開発) 平成2年5月受章.
学会役員: 日本植物病理学会幹事 (2年), 同評議員(9年), 同編集委員 (9年), 日本ウイルス学幹事 (4年).
講師: 岐阜大学農学部, 昭和57 〜 59年3回植物ウイルス学の講義を行なう.

永年会員 大島俊市
大正13年3月4日, 岡山県に生まれる. 昭和16年鳥取高等農業専門学校農学科入学, 昭和18年同校卒業. 昭和18年財団法人大原農業研究所に入所, 昭和19年久留米陸軍予備仕官学校入校, 昭和20年同校を卒業, 同年大原農業研究所に復職. 昭和21年大蔵省専売局岡山煙草試験場に奉職, 研究員. 昭和41年日本専売公杜宇都宮たばこ試験場水戸分場分場長. 昭和51年日本専売公杜海外調査課調査役. 昭和52年同社岡山たばこ試験場次長. 昭和57年同社退職, 同年内海工業株式会杜常務取締役となり, 現在に至る.
研究歴としては, 大原農業研究所では助手として, 植物病理の研究に従事, 一般作物や中国大陸のワタの病害の研究を手伝った. この時, 研究テーマとして「拮抗徴生物利用による植物病害防除」を得た. 岡山たばこ試験場では, 白絹病の防除に拮抗菌Trichoderma lignorumを利用して, 実用効果を確認した. その後, 培養の量産法, 製剤方法, 保存技術などを研究して, トリコデルマ生菌 (農薬登録第7023号) を開発した. タバコの病害ならびに害虫の防除研究に従事した. 昭和29年広島県にナス科の重要病害ジャガイモガが侵入したので, 植物防疫法の発動に応じて, 現地に設けられた試験場分室に勤務した. そして, ジャガイモガ寄生菌紫赤きょう病菌を分離した. それ以来, その利用研究を行っている. 線虫捕食菌を研究Lて, Dactylella ellipsosporaが防除効果を示すことを報告した.
宇都宮たばこ試験場水戸分場では, 特殊たばこ原料葉の生産技術の開発とその病害防除の研究を行った. 昭和46年, たばこ及び油料作物資源の調査班に加わって, エチオピアの産地を調べた. 病害虫特にジャガイモガの惨害を知った. 昭和49年, 葉巻葉の発酵技術に関する調査のためキューバに出張して, 貯蔵中のカビの害, 穿孔性害虫の大被害を実見して, 天敵微生物による防除の必要なことを感じた. 昭和51 〜 52年, タバコ病害の研究指導のため, JICA派遣専門家として, ブラジル, サンパウロ州政府生物研究所に勤務した. 大面積の粗放農業では, 生物防除と微量要素対策が求められていることを実感した.
研究テーマを頂いた故西門義一博士, ご指導を賜った平塚直秀博士, 故広江勇博士, タバコ病害について教えを受け, 学位論文を審査してくださった故日高醇博士に感謝いたします.

永年会員 大谷快夫
大正14年1月14日, 神奈川県に生まれる. 昭和20年九州帝国大学農学部入学, 現役入隊による短期の軍歴後復学, 昭和23年同校卒業, 大蔵省入省, 専売局岡山たばこ試験場に配属, 以後, 日本専売公杜宇都宮試験場次長, 同秦野試験場調査役, 同宇都宮研修所調査役兼主任講師などを歴任し, 昭和49年同盛岡たばこ試験場長. 研究面では, 岡山試験場では病虫課長としてタバコ病害虫の防除研究に当り, 病害面では産地の主要病害であった黒根病, 白絹病, 野火病, タバコキュウリモザイク病などの防除研究に当った. ことに黒根病に関しては菌の土壌中の生態, 検出法ならびに防除法など一連の研究を進め, また野火病については産地における総合防除法を実施した. 宇都宮試験場では, タパコの土壌伝染病の防除を主体に連作対策の共同研究管理者として研究総括に当った. 秦野試験場, 宇都宮研修所では, 当時実施されていた公杜内生産技術員の専門研修等にインストラクターを勤めたほか, タバコ病害虫原色図鑑の作成や, タバコの土壌消毒法スライドの作成指導, タバコ生産技術教本 (病害編, 農薬編) などの作成や技術普及に当った. 昭和48年には日韓タバコ技術交流による教育研修に赴き, 病害防除法の講義や忠北大学での講演も行った.
この間, 昭和36年にはタバコ黒根病に関する研究で農学博士, 昭和39年には, 同研究業績により日本植物病理学会賞を頂いた. 昭和48年には, 日韓たばこ技術交流における教育研修での功績により, 韓国専売庁長官より感謝牌を受領した.
日本専売公社退職後は, 農機会社役員, 東京農工大学講師 (非常勤), 日本葉たばこ技術開発協会常任委員など歴任. なおこの間,日本たばこ産業株式会社発刊の葉たばこ技術・研究史 (病害編) の分担執筆と編集に協力した. 平成8年には専売事業功労により勲四等瑞宝章受章. 永年にわたり農学分野の研究と技術教育に傾注できたことは大きな喜びである. 植物病理学に関しては, 先に末松直次教授や, 九大の吉井甫教授の薫陶を受け, 専売では日高醇博士のご指導を受けた. また永年にわたる学会を通じての情報や諸先輩のご指導により意欲的に研究活動が進められたことを感謝している. 環境保全の重要視される現在, 該分野の研究が基礎, 応用分野ともますますの発展を希うものです.

永年会員 瓜谷郁三
大正8年3月21日, 旧満州大連市に出生. 昭和16年12月東京大学農学部農芸化学科卒業. 戦時中は陸軍糧秣本廠研究部で木材腐朽菌利用, サツマイモ腐敗防止等の研究に従事. 戦後東大農学部で藪田貞治郎教授と住木諭介教授の指導下で副手, 助手としてサツマイモ−黒斑病菌系の病理生化学の研究に従事した. その間樋浦誠先生や明日山秀文先生方のご教授や励ましを頂いた. 昭和27年に生物化学助教授として名古屋大学農学部農芸化学科に移り, 上記研究を継続した. 昭和44年に約1年間学生部長, 昭和51年より4年間農学部長に就任し, 昭和57年に停年退職した. その後東京農業大学 (客員教授, 平成1年まで), 名古屋女子大学 (教授・客員教授, 平成5年まで)に在籍し, 続いて(学)愛知江南学園 (理事・理事長, 平成11年まで) に務めた. 研究は, 病菌侵入に反応して示すイモ類の激しい異常現象の解析が病理学の基礎解釈に結び付くと共に, 健全な植物が持つ生命現象の機構解明への道に通じると思い,「異常から正常へ」をモットーにして進めてきた. またイモ類研究の発展はやがて開発途上国の人々を襲う可能性のある食糧問題を解決する一助と思い, 昭和52年から通常の職務の他に, 開発途上国 (特に中国・フィリピン) の研究者と, キャッサバやサツマイモの収穫後変質や貯蔵病害等の共同研究に関わった.
この間幾つかの学会でそれなりに評価を頂いたが, 心に残るのは, 昭和42年に米国植物病理学会からフェローに, 昭和45年に日本農学会から日本農学賞受賞者に, 昭和48年に米国植物生理学会から外国人客員会員に, また平成3年にフィリピン生化学会から同学会賞受賞者に推挙されたことである. 昭和49年に日本植物生理学会会長に選出され, 2期務めたことも思い出される. 日本植物病理学会への貢献は費念ながら何も無く, むしろ多くの会員からご教授を頂き, 時折本学会に出席し, また発表の機会を頂いたことである. ただ赤井重恭・平井篤造両先生と共に, 昭和41年に宿主-病原体相互作用に関する日米セミナーを蒲郡で開催し, これが縁となり, このシリーズが続いていることは, 間接的ながらもわずかながら本学会への寄与に当たればと思っている.

永年会員 横山佐太正
大正14年1月23日福岡県生まれ. 昭和20年12月鹿児島農林専門学校農学科卒業. 昭和21年4月福岡県農業試験場菌虫部に研究生として入場, 昭和22年職員採用, 以来病害虫部において作物病害防除に関する試験研究及び発生予察業務に従事, 昭和32年研究員, 昭和33年農業改良研究員資格取得, 昭和38年に3か月・農水省農業技術研究所研病理科で研修 (岩田吉人室長), 昭和39年病理研究室長, 同年専門研究員, 昭和47年病害虫部長, 同年より3か年九州大学農学部植物病理学教室専修生, 昭和49年農学博士 (タマネギ白色疫病に関する研究). 昭和56年福岡県農業総合試験場創設に伴い経営環境研究所長就任, 昭和58年3月定年退職後, 同年6月より九州病害虫防除推進協議会の常務理事を務め現在に至る.
試験研究の対象作物は, 水稲・麦・ナタネ・豆類・飼料作物・野菜・果筒に及ぶが, 発表論文数は病害を主として計179編. 中でも主要なものは, イネ心枯線虫病・いもち病・紋枯病・穂枯れ・わい化病・要防除水準, コムギ縞萎縮病, タマネギ白色疫病, カンキツ苗疫病等.
イネ心枯線虫病の生態及び防除に関する研究は, 最も多く29編. イネわい化病の原因究明では, 他のプロジェクトチームに先んじて, 昭和49年ツマグロヨコバイ媒介の新ウイルス病であることを実証. その結果「圃場の問題点は, 圃場にある」・「研究手法の原点は観察」であることを再認識した. 朝異常を認めなかった稲が, 夕方黄変しているのを発見し, 思わす快哉を叫んだことは忘れられない. この業績により, 昭和57年に「農業技術功労賞」, 平成5年に農業試験研究一世紀記念会の「会長賞」を授与するという光栄に浴した. 昭和50年代, 評議員を数期務め, 多くの権威者各位との出会いにも恵まれた. 九州大学で開催された昭和41年4月及び同60年4月の大会の際, オリジナルのNSK研究会編『夜の博多防除指針』を限定配布した. この活用反響は極めて大きく,“隠れたベストセラー"という評価を受けた. 学会への貢献は, 昼の部よりも黄昏以降の生態学研究業績でいささか発揮したと自負している. 虫眼鏡でも見づらいという, 三色によるいわゆる「横山メモ」は, 今なお執念によって継続中である.

オーバーヘッドプロジェクター (OHP) を用いた学会講演のお知らせ

「植物感染生理談話会講演要旨集」が題名変更になります
感染生理談話会では, 毎回講演要旨集を出版しており, その都度, 講演者の先生方には最新の知見を御紹介いただいております. そこで, その御業績について出来るだけ公の形で認知していただく手だてとして, 平成12年度感染生理談話会事務局より国立国会図書館に国際標準逐次刊行物番号取得の申請を行い, 平成12年6月21日付けでISSN1345-8086が交付されました. 国際標準逐次刊行物番号の取得にあたり, 今後の講演要旨集につきましては名称が「植物感染生理談話会発表論文集 (Plant-Micro Interaction Symposium Reports)」と変更となることに決まりました. 従いまして, 講演者の先生方には, 本論文集を業績としてご活用いただげます. また, 引用文献としても皆様の積極的たご活用を希望いたします.

【平成12年2月〜平成12年5月の学会活動状況】
1.大会開催報告
2000年度日本植物病理学会大会は, 平成12年4月2日から4日にかけて岡山大学一般教育棟を会場として開催された. やや肌寒く桜の開花が遅れたが, 期間中はほぽ晴天に恵まれ盛会のうちに無事閉会した. 大会参加者は882名にのぼり, 講演演題数は377題, 懇親会参加者は511名であった.
今大会は, ミレニアム大会として記念ツンポジウム「21世紀と組換え動植物」の開催をはじめ, 新世紀に向けての新しい試みを随所に取り入れるよう心がげた. 一方, 予想を上回る多数の御参加を頂いた結果, 会場設営等で会員の皆さまにはご迷惑をおかけしたかと省みている.
本大会は, 中国四国地区の会員によって運営され, 地方自治体や財団をはじめとする協賛団体および協賛会社等の多大な御支援によって実現した. 記して感謝の意を表したい. なお, 最後に本大会開催にご尽力賜りながら, 開催後ご逝去された故山田哲治先生のご冥福をお祈り申し上げる.(白石友紀)

2.研究会開催報告
(1)第3回植物病害生態研究会
第3回植物病害生態研究会は, 平成12年4月5日に岡山大学農学部において, 「続植物病害生態のブラックボックス」および「IPMの可能性を探る」のテーマで開催された.
参加者89名 (大学: 13名, 都道府県: 29名, 農水省: 21名, 民間: 26名) で盛況であったが, 院生・学生が極端に少なく, 大きな反省点となった. 研究会では,「ナシ黒斑病の発生生態の解明と課題」渡辺博幸氏 (鳥取園試), 「モモ黒斑病の発生生態の解明と課題」井上幸次氏 (岡山農試), 「IPMの現状と展望」中筋房夫氏 (岡山大学農学部),「北海道におげるクリーン農業プロジェクトとIPM」清水基滋氏 (道立十勝農試),「なにが病害防除へのIPM導入を阻んできたか」石黒潔氏 (東北農試) の講演がなされた. 前半2題は児玉基一郎氏 (鳥取大) の座長により, 生態の未解明部分に焦点があてられた. 後半3題および総合討論 (道立中央農試・竹内徹氏座長) では応用植物病理学老に突きつけられた最も今日的な課題であるIPMについて, 応用昆虫学の研究者も巻き込み激しい議論の応酬があった. 第4回は平成13年の大会前後に仙台市内において開催予定であり, 理論面・応用面共にバランスのとれた内容を考えている. 開催日時については参加希望者の意向を反映したいので, 代表幹事の東北農試石黒 (e-mail: ishiguro@tnaes.a=趾c.go.jp) あてに意見を出していただきたい.(石黒潔)

(2)第10回殺菌剤耐性菌研究会
第10回殺菌剤耐性菌研究会シンポジウムは, 平成12年4月5日, 岡山大学農学部で開催され, 148名の参加が得られた. 岡山県における野菜病害と耐性菌 (岡山農試, 粕山新二氏), マメ類灰色かび病菌のフルアジナム耐性と対策 (道立北見農試, 田村修氏) についての講演の後, シモキサニルの作用機構と耐性菌対策 (デュポン, 白石慎氏), 灰色かび病菌の新規薬剤フルジオキソニルに対する感受性検定法 (ノバルティスアグロ, 平田明靖氏) が紹介された. 次いで, 最近問題となっているストロビルリン系薬剤耐性が集中的に取り上げられた. キュウリうどんこ病菌やべと病菌の耐性菌にみられる生物学的特性の紹介 (JA全農, 天野徹夫氏) や耐性機構に関する考察 (農環研, 石井英夫) がなされた. 最後に, 海外からの招待講演老Steve Heaney (ZENECA), Josef Appel (BASF) の両氏が, 各国におけるストロビルリソ系薬剤耐性菌の発生事例と対策について述べた. 出席者の関心の高い話題が多かったことから, ツンポジウム全体を通じて, 括発な議論が交わされた.
なお, 講演要旨集 (1部 2,O00円) をご希望の方は, 研究会事務局 (農環研殺菌剤動態研, TEL&FAX: 0298-38-8326) までご連絡下さい. (石井英夫)

(3)第5回植物ウイルス病研究会
この研究会は, 平成12年4月5日倉敷市立美術館にて, 140名の参加を得て開催された. ウイルスの変異と進化のセッションでは, 植物レオウイルスの昆虫媒介に関与するタンパク質とその機能 (大村敏博氏), カピロウイルスゲノムの構造と分子変異 (吉川信幸氏); 最近話題のウイロイド・ウイルス病のセッションでは, 果樹のウイロイド病 (伊藤伝氏), 日本に発生するBegomovirusとその分子的特徴 (大貫正俊氏), メロン黄化えそウイルスを中心にしたトスポウイルスの発生 (加藤公彦氏); ウイルス・宿主相互関係のセッションでは, ブロモウイルスの宿主適応 (三瀬和之氏), 植物RNAウイルスの増殖に関与する宿主因子 (石川雅之氏) についてそれぞれ最新の研究成果が紹介され, 活発な討議がなされた. 今回は研究会発足10年を記念して, オーストラリア国立大学のAdrian Gibbs博士を招待し, An evolutionary view of plant virus identification の演題で特別講演が行われた. また, 韓国からは張茂雄氏 (嶺南大), 崔章京氏 (江原大) が参加され, 韓国でのウイルス研究会の状況をご紹介頂いた. なお講演要旨集には, 特別記事として大木理氏の植物ウイルス分類の最近の動きが掲載されている. 講演要旨集 (1部 1,000円) 希望の方は, 玉田哲男 (Tel&Fax: 086-434-1229)にご連絡下さい.(玉田哲男)

【学会関連各委員からの報告】
1.日本学術会議微生物研究連絡委員会報告
第17期日本学術会議微生物研究連絡委員会長の三輪谷俊夫先生は任期を残され平成12年3月23日にご逝去された. 前回報告した委員会以来, 予定していた委員会は開かれていない. なお, この間, 微研連で検討してきた委員長懸案の「わが国における微生物・培養細胞カルチャーコレクションのあり方に関する提言−生物資源等に関わる知的基盤整備をめざして−」の対外報告を成案化し提出した. 本報告は日本学術会議第6部会および平成12年3月27日の運営審審議会で承認され, 記者発表に臨んだ. 幹事会は故三輪谷委員長の残任期間の委員長として, 推薦人会議において次点であった北本豊先生 (鳥取大学農学部教授) の発令手続をした. また, 3細目への推薦依頼があった科学研究費補助金の審査委員候補者について, 農学「食品科学・栄養科学」には日本食品衛生学会, 複合領域「環境影響評価」には日本微生物生態学会, 複合領域「環境保全」には日本生物工学会および日本防菌防黴学会に人選を委託した. なお, 境界農学「応用分子細胞生物学」への推薦委員は平成13年度も継続する. (道家紀志)

2.日本農学会報告
(1)平成12年度日本農学大会
日時: 平皮12年4月6日
会場: 東京大学山上会館
本年度の日本農学賞および第37回読売農学賞の受賞者は次の7氏である.
1) 農業機械のエネルギー有効利用に関する研究
農業機械学会: 日本大学生物資源科学部教授 木谷 収
2) 害虫個体詳の団態とその調査・解析法に関する数理生態学的研究
日本応用動物昆虫学会: 京都大学大学院農学研究科教授 久野英二
3) 持続可能な森林管理のための森林計画システムの研究
日本林学会: 東京農工大学農学部教授 木平勇吉
4) 哺乳動物の視床下部機能に関する神経生物学的研究
日本獣医学会: 味の素株式会杜顧問 高橋迫雄
5) 海洋生化学資源の開発に関する研究
日本水産学会: 東京大学大学院農学生命科学研究科教授 伏谷伸宏
6) 家畜の体温調節特性からみた温熱環境管理に関する研究
日本畜産学会: 広島大学生物生産学部教授 山本禎紀
7) 植物ステロイドホルモン・ブラシノステロイドに関する生物有機化学的研究
日本農芸化学会: 帝京大学理工学部バイオサイエンス学科教授 横田孝雄
また, 同日午後「農学領域におけるゲノムサイエンスの展開」というテーマでシンポジウムが開催された.

【今後の本学会の活動および関連学会開催予定】

【会員の動静】

【書評】

山田昌雄編: 『微生物農薬−環境保全型農業をめざして−』A5判, 228pp., 発行: 全国農村教育協会, \3,O00
本書は微生物農薬の開発理念, 特徴, IPMにおける位置づけ, さらに世界/日本における微生物農薬開発の現状と展望等を纏めたわが国初の微生物農薬の解説書である.環境保全型農業が求められている今日, 本書の発行は真に時宜を得た企画と言える.
冒頭の「微生物農薬と微生物」で, 編者は今なぜ微生物農薬なのか, 微生物農薬の特性, 作用機構, 安全性等について述べながら, 微生物農薬への熱い思いを語っている.「微生物の特性とその利用」では, 糸状菌と細菌について, 微生物農薬への利用機能に焦点をあてながら解説され, 「微生物農薬ができるまで」では, 菌の探索, 性能の最適化, 培養,製剤, 農薬登録について分担執筆されているが, 筆者はいずれも開発に携わった方々で, 簡潔な中にも開発への熱意が行間に読み取られる.
本書の中核をなすのが「微生物の開発とその利用」で, 除草剤, 殺虫剤, 殺菌剤ごとに前半では開発の理念, 開発の現状, 展望について総説的に述べられている. 格調の高い開発理念, 豊富な資料に基づく現状の解説, 具体的た方向をも提示しながらの展望は読みごたえがある. 後半では除草剤の「キャンペリコ」, 殺虫剤の「BT剤」,「芝市ネマ」,'「バイオリサ・カミキリ」,殺菌剤の「ボトキラー」,「バイオキーパー」の開発経緯, 特徴などが各論的に紹介されている. 「BT剤」を除いては最近開発された純国産の微生物農薬で, 今後の発展が期待される.
つづいて「微生物農薬以外の環境保全型防除法」では, 微生物源農薬, 植物源農薬, 脂肪酸農薬, フェロモン, 低抗性品種, 弱毒ウイルス, 機械的・物理的防除, 遺伝子組み換え, 低抗性品種, VA菌根菌, 耕種的防除などが簡潔に解説されている.
さらに,「環境保全型農業」の背景と理念, IPMの位置づけ, 世界における取り組みの現状, 新農業基本法下での我が国の取り組みが紹介されている.
最後は編者の一人駒田氏が提示された, 微生物農薬が今後発展するために越えたけれぱならないハードルを如何に克服するかについて, 編者の思いと将来への期待で結ぱれている.
植物防疫関係はもちろん, 環境保全型農業に関心のある方々にも是非お薦めしたい. (大畑貫一)

A.L. Snowdon 著, 佐久間 勉・津田盛也 監訳:『ポストハーベスト[I]果実編』B5判, 304pp., 発行: (株)廣川書店, \28,000
収穫された後, 貯蔵・輸送・流通・販売され消費者の口に入るまでに発生する果実の病害および障害に関する総括的な解説書である. 第1章では, 収穫後果実劣化の本質と原因について述べている. 腐敗を起こす病原菌や障害を起こす生理的要因についての解説は勿論, 著者自身この研究に入った切掛は, ケンブリッジ大学の学生時代に積荷訴訟にからむ青果物の輸入業者および輸出業者からの奨学金であったと述べていることからもわかるように, 果実の生理・輸送中の温湿度の管理・冷蔵室の構造等の解説, さらには法植物病理学の必要性にまで言及している.
第2章以下は各論で, カンキツ類 (ミカン・オレンジ・グレープフルーツなど), 仁果類 (リンゴ・ナシ), 核果類 (モモ・オウトウなど), 漿果類 (ブドウ・ブルーベリーなど), 熱帯果実 (バナナ・マンゴーなど) およびわが国では野菜とされているイチゴ・メロン・スイカの病害・障害がカラー写真入りで, その発生・分布・症状・生態・防除について解説している.
果実に限らず, 病害による作物の減収ないし損害を考えるとき, 生産から消費までをトータルにとらえる必要があるが, これまでは生産の場面での研究に力が注がれてきた. そういう観点からも本書は貴重である. 引用文献も豊富で, すぐれた学術書であり, 研究者にとって有益であると同時に, 果実の病害や障害に重大な関心を寄せる生産者・貿易業者・流通業者・青果販売業者等にとっても是非備えておきたい書物である.
消費者にも推薦したいが, 近年の有機農産物に対する関心から「ポストハーベスト」という言葉が, 誤って「収穫後に使用される農薬」の意味に使われるようになったことから, 本書は「ポストハーベスト (収穫後に発生する) 病害」(市場病害とも言われる) の解説書であることを付け加えておきたい. (山口昭)

中村重正著: 「菌食の民俗誌−マコモと黒穂菌の利用』A5判, 205+13pp., 発行: 八坂書房, \2,600
マコモタケの名を耳にしてから久しい. 実は名付げ親が本書の著者中村重正氏であることを初めて知った.
本書は 1.世界のマコモ, 2.日本人とマコモ, 3.マコモと黒穂菌, 4.非目常のマコモ文化, 5.マコモの栽培と利用, 6.ワイルドライスはアメリカの味, の6部から構成されている. マコモ (真菰) はかつて日本国中の水湿地に広く分布していたと思われるが, 今ではかつての生育地の多くが失われ限られた場所で細々と生き続けている. その茎葉は古くから敷物や包装資材として利用され, 若芽は食用に, 黒穂菌 (Ustilaga esculenta)に感染, 肥大した幼芽は美味なマコモタケ (真菰茸) として珍重される. マコモタケが老熟して胞子形成に至ったものがマコモズミ (真菰墨), これは鎌倉塗の古色づけなどに使われる. アメリカマコモの実は古くからインディアンの重要な食料として知られ, 今やワイルドライス (wildrice) として北アメリカ原産の唯一の穀物として作物化への道をたどっている. 人とマコモの関わり全般について豊富な情報が柔らかい筆致で興味深くつづられ, マコモに魅せられた一研究者の熱い想いが伝わってくる. 巻末の文献は178編に及ぶ.
植物病理学, 菌学, 資源植物学, 作物学, 食物栄養学, 民族学の多方面にわたる知識が渾然一体にまとめられた本書は教科書, 実用書, 専門書としてそれぞれ重みを持っている. この分野での久々の快著として多くの方々にご購読をお勧めする. (原田幸雄)

【学会ニュース編集委員会コーナー】

編集後記