日本植物病理学会

日本植物病理学会
The Phytopathological Society of Japan

はじめに

植物の病気に関する記述は古くは旧約聖書にもすでに認められ、わが国においても万葉集にウイルス病と推定される葉脈黄化症状を呈したヒヨドリバナの記載がある。近代科学としての植物病理学の誕生は1861年のA. de Bary(ドイツ)によるジャガイモ疫病菌の発見が契機とされる。そして、世界で最初の植物病理学会が組織されたのは、1891年のオランダであり、次いで1908年に米国植物病理学会が発足している。

一方、わが国では、1886年に白井光太郎が東京農林学校(現東京大学農学部)で、続いて1889年に宮部金吾が札幌農学校(現北海道大学農学部)で植物病理学の講義を開講した。1906年には東京帝国大学農科大学(現東京大学農学部)に、翌1907年には東北帝国大学農科大学(現北海道大学農学部)に、それぞれ植物病理学講座が開設された。一方、農商務省(現農林水産省)農事試験場に病理部が設けられたのが1899年であり、以降、各大学や農林専門学校および各県農業試験場などに植物病理学関係の研究室が相次いで整備された。さらに、1914年には横浜に植物検査所(現植物防疫所)が設置された。こうした機運を背景にして日本植物病理学会が創立されたのは1916年のことである。

学会の創立および運営

1916年12月2日、当時の有名西洋料理店のひとつである神田の多加羅亭において在京の植物病理学関係者17名の懇親会が催された。その席で堀正太郎氏から植物病理学会の創立が提唱され、満堂の賛成を得て創立の運びとなった。発足当初の会員数は111名(うち団体会員1)、評議員は16名、幹事は3名であった。会長は1918年から会則に採り入れられ、初代会長は白井光太郎氏であった。

本会の組織は会長を筆頭として、学会の最高議決機関である総会、会務を審議し学会活動を推進するための評議員会、緊急を要する会務等を審議する常任評議員会、学会運営の実務を処理する幹事会、および編集委員会をはじめとして学会の個別の事業を担当する各種委員会から構成されており、そのための各種の役員および委員が規定されている。このような体制は時代による変遷はあるものの基本的には設立初期と大きく変わっていない。

学会事務所は本会発足から1918年までは農商務省農事試験場病理部内にあった。その後、北海道帝国大学農学部植物学教室、農商務省農事試験場、東京帝国大学農学部植物学教室、日本植物愛護会、養賢堂、農業技術研究所と変遷した。1975年に学会事務の一部を日本植物防疫協会に委託することとなり、それ以来、学会事務所は日本植物防疫協会内に置かれている。

学会報および学会関連出版物

日本植物病理学会報(略称:日植病報、英名:Annals of the Phytopathological Society of Japan)第1巻 第1号は1918年2月に発刊され、原著5編と抄録11編が掲載された。以後、年1回の発行で6号分を1巻とする状況が続いたが、1934年の第4巻から年4回発行で4号分を1巻とすることになった。1944-1948年の5年間は戦争のため休刊となり、1949年の第13巻から復刊された。第22巻(1957年)からは年5号となり、第59巻(1993年)からは年6号発行となった。第66巻(2000年)からは、会報を英文誌「Journal of General Plant Pathology(JGPP)」と和文誌「日本植物病理学会報」に分割して発行することになった。

JGPPは当初は年4号、第69巻(2003年)から年6号発行となった。

一方、和文誌は、当初は年3号、第69巻(2003年)から年4号発行となっている。第61巻(1995年)から和文誌の巻末に学会ニュース欄を設け、会員の動静、学会活動の状況および予定、名誉会員・永年会員の紹介、関連学会情報、書評などの記事を掲載している。

なお、記念大会関連事業の一環やその他必要に応じて本学会が編集した各種出版物を刊行している。主なものとしては、創立60周年記念出版として日本植物病理学史(60年史・1980年)、創立80周年記念出版として植物病理学事典(養賢堂・1995年)、創立100周年記念出版として日本植物病理学100年史(2015年)、日本有用植物病名目録、日本植物病名目録(2000年)等がある。

病名目録は、1960年より全5冊スタイルで編集してきた病名目録[旧称:日本有用植物病名目録:第1巻(食用作物・特用作物・牧草・芝草)、第2巻(野菜および草花)、第3巻(果樹)、第4巻(針葉樹、竹笹)、第5巻(広葉樹)]に、新病害等の新たな情報を加えて1冊に統合し、2000年に日本植物病理学会編/日本植物病名目録(初版)として日本植物防疫協会から発行された。第2版が日本植物病理学会・農業生物資源研究所編/CD-ROM版として2012年に発行され、2015年以降は本学会の植物病名委員会が日本植物病理学会編/日本植物病名目録PDF版として毎年更新している。

日本植物病理学会報

日本植物病理学会報
第1巻第1号(1918)

日本植物病理学会報

日本植物病理学会報
第31巻創立50周年記念号(1965)

日本植物病理学会報

日本植物病理学会報
第65巻第6号(1999)

日本植物病理学会報

日本植物病理学会報
第66巻第1号(2000)~

Journal of General Plant Pathology

Journal of General Plant Pathology
Vol.66, No.1 (2000)

Journal of General Plant Pathology

Journal of General Plant Pathology
Vol.67, No.1 (2001)

Journal of General Plant Pathology

Journal of General Plant Pathology
Vol.69, No.1 (2003)~

Journal of General Plant Pathology (Spine)

(裏表紙)

日本植物病理学史

日本植物病理学史
(創立60周年記念出版)
(1980)

日本植物病理学事典

日本植物病理学事典
(創立80周年記念出版)
日本植物病理学会編/
養賢堂発行(1995)

日本植物病理学100年史

日本植物病理学100年史
(創立100周年記念出版)
日本植物病理学会報
第81巻記念特別号(2015)

日本植物病名目録

日本植物病名目録
日本植物病理学会編/
日本植物防疫協会発行(2000)

日本植物病名目録(第2版) CD-ROM版

日本植物病名目録(第2版)
日本植物病理学会
・農業生物資源研究所編/
CD-ROM版(2012)

日本植物病名目録 PDF版

日本植物病名目録
日本植物病理学会編/
PDF版(2015~)

大会および部会

学会創設後初の講演会(大会)は1918年1月に東京神田の学士会館で行われた。以降、毎年一回春季に総会ならびに大会を開催している。1944-1945年、1947年には一時中止されたが、1948年には再開された。大会会場は1963年まで、主に東京大学農学部であったが、1966年以降は原則として地方と東京の隔年開催となった。1986年以降は大会開催地域を北海道、東北、関東、中部、近畿、中・四国、九州の7ブロック、さらに1996年以降は関東ブロックを北関東と南関東に分割し、全8ブロックの輪番制となり、現在に至る。2011年の大会は3月の東日本大震災の影響で中止とされた。

1940年を本会創立の年から数えて創立25周年として以降、節目毎に記念大会が盛大に行われてきた。25周年記念大会は東京上野の科学博物館、創立50周年記念大会は東京の日本都市センターおよび全協連ビル、創立80周年記念大会は東京大学安田講堂および東京農業大学で催された。創立100周年記念大会は2015年に東京の明治大学を会場として、記念講演および記念シンポジウムが行われ、東京ドームホテルで祝賀会が催された。

地域部会は1947年に北海道、関東、関西、1950年に東北、九州の各部会が発足して以降、原則として毎年秋季に1回、1-2日間の日程で講演会が開催されている。

写真:令和6年度大会の様子(1.総会、2.新会長講演、3.情報交換会)

各種授賞

本会は1953年以来、植物病理学上、顕著な業績あるいは功績のあった会員に日本植物病理学会賞を贈ることとしている。毎年における授賞者数は、1953-1965年は1-2名、1966年以降は3名となって現在に至る。

日本植物病理学会学術奨励賞は1971年以来、植物病理学の進歩に寄与する優れた研究をした若手の会員(35歳未満、2011年以降は40歳未満)に贈られ、毎年の授賞者数は1971-1975年は1名、1976年以降は3名となって現在に至る。

日本植物病理学会論文賞は2002年以来、学会報の英文誌および和文誌に掲載された優秀な論文に対して毎年2件ずつ、授与されている。

また、大会講演をおこなった学生会員を対象として大会委員長が授与する学生優秀発表賞は2006年から導入され、毎回十数名の学生・院生が授与されている。

写真:授賞式の様子

写真:平成30年度受賞者の方々(1.学会賞、2.学術奨励賞、3.論文賞)