日本植物病理学会 会長

日本植物病理学会は、植物病理学の進歩と普及をはかることを目的として、1916年に創設されました。現在、外国会員を含めて約1700名の会員によって組織されています。

植物病理学会では、農作物・樹木から生活環境植物まで幅広い植物を対象として、植物の病気の原因となる微生物やウイルスなどの病原体の診断・同定、病原体の伝染方法、病原体の感染・増殖機構、病原体と植物の相互作用、植物の病害抵抗性の機構などを明らかにし、植物を病害から防除する方法の開発、あるいは病気に強い植物の開発など、植物の病気に関わる基礎的および応用的研究を行っています。

これまで、植物病理学は米、野菜、果樹、樹木などの病害防除を中心に食糧生産や森林生産に輝かしい成果をもたらしたばかりでなく、基礎科学の面でも分子生物学、分子遺伝学、植物バイオテクノロジーなどの分野の発展に貴重な多くの貢献をもたらしました。今後も植物病理学の基礎的な研究を基盤とする新しい学術分野、科学技術の発展が期待されます。

本会は、2020年3月末日まで「任意団体」として運営してまいりましたが、同年4月1日から一般社団法人日本植物病理学会として、105年目の歴史を新たに刻み始めました。その結果、本会は社会的に認知・信頼される一般社団法人になりましたが、一方で、社会的責任が明確化されたことになります。

本会創設時以来の目的である「植物病理学の進歩と普及をはかること」を踏まえ、植物病理学分野における研究・教育や情報発信、植物保護に関する技術の開発・普及による植物の健康保全、食料や森林等の持続的安定生産への寄与等を通じてSDGsに貢献できる団体として、将来に亘って社会的責任を果たすことが求められます。

本会には、会員数と会員の多様性や国際性をどう維持するか、小集会(研究会)等や学会誌のあり方など今後検討・解決しなくてはならない課題が山積しています。将来問題検討委員会等を中心に議論をすすめ、会員の皆さんと一体となって本会をさらに魅力ある組織へと成長させていくことが求められています。本会が持つ専門的な知見や、本会会員の研究成果をいかに発信するかも、重要な社会に対する責任の一つであると言えます。

植物病理学では、植物病害の観察、疫学的解析、新型病原の出現機構の解析、診断技術の開発・普及、薬剤を含む防除技術の確立、予察、感染拡大の防止、国内・国際検疫を担っておりますが、作物生産現場では農家に対する病害防除を指導し、さらには、営農といった観点からも相談にのっています。

解析で得られるデータを誰がどのように理解し、対策に反映し、経済面も含めて先を予測し、それを如何に社会に伝え、正しく理解してもらうか、本会が持つ知見や研究成果を社会に発信する際にも同様な困難が待ち構えているでしょう。できるだけ多様な価値観を持つ会員に本会で活躍していただき多面的な議論を行うことで、社会からの認知も進むことが期待されます。そのためにもより現場に近い地域試験場や企業の会員からも、もっとご意見をいただけるような本会の姿を想像しています。

このように、植物病理学会では、「植物を病気から如何にして守るか」を命題に、植物の病気に関わる基礎から応用までの幅広い研究を行い、更なる植物病理学の発展あるいは植物科学の発展に向けて、また食糧や森林の安定的生産、生活を取り巻く植物の保護などを通して社会に貢献できる魅力ある学会を目指して頑張っています。

その成果は、和文誌として年4回発行する日本植物病理学会報、および英文誌として年6回発行するJournal of General Plant Pathology (Springer Nature社より出版) に掲載されています。また、日本における植物の病気や病原菌について「日本植物病名目録」として取りまとめており、農研機構遺伝資源研究センター「日本植物病名データベース」からも閲覧できます。これらの発行物はいずれも、日本植物病理学会ホームページから皆様にご覧いただけるようにしています。

学会に関するご要望やご意見がありましたら、電子メールにてお寄せ下さいますようお願い申し上げます。